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【中小企業の多角化経営】9つのメリット・デメリットや戦略を進める方法を徹底解説
大手の企業でも行われている経営の多角化は、中小企業が会社として成長するために欠かせません。しかし、中小企業の多角化について深く理解している方は少なく、「多角化することでどんな変化が得られる?」「中小企業が多角化する必要性は?」と疑問に思っている方も多いでしょう。
そこで本記事では、中小企業の多角化におけるメリット・デメリットや具体的な進め方を詳しく解説します。多角化の基礎についても紹介するので、今後の経営のためにぜひ最後までご覧ください。
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<目次>
多角化とは?成長戦略の一つ
多角化とは、既存事業を営みながら新たな分野に進出することです。新型コロナウイルスの影響で事業環境や顧客のニーズに大きな変化があったことにより、多くの企業で多角化戦略が検討されています。
「戦略的経営の父」として知られている経営学者のイゴール・アンゾフは、企業の成長戦略を「製品」と「市場」の2つに軸を置きました。それぞれを新規と既存に分けたマトリクスが「成長マトリクス」で、下記の4つの成長戦略が示されています。
市場浸透戦略 | 既存製品と既存市場の掛け合わせ |
新製品開発戦略 | 新規製品と既存市場の掛け合わせ |
新市場開拓戦略 | 既存製品と新規市場の掛け合わせ |
多角化経営戦略 | 新規製品と新規市場の掛け合わせ |
上記から分かるように、多角化は「新しい市場に新しい製品を投入する」という経営戦略であり、新しい分野へ進出して企業の成長を促すことを意味しています。
多角化の4つの分類
「新しい市場・顧客へ新しい商品・サービスを投入する」と一言でまとめられる多角化ですが、分類すると下記のように細かく分けられます。
先ほど紹介したイゴール・アンゾフの成長マトリクスでは、多角化は「水平型」「垂直型」「集中型」「集成型」の4つに分類されています。
多角化の分類 | 特徴 |
水平型多角化 | 既存事業と類似している市場に、既存製品と関連性が高い新規製品・サービスを投入する |
垂直型多角化 | 既存事業と類似している市場に、既存製品と関連性が低い新規製品・サービスを投入する |
集中型多角化 | 新市場に既存製品と関連性が高い新規製品・サービスを投入する |
集成型多角化 | 新市場に既存製品と関連性が低い新規製品・サービスを投入する |
既存の生産技術やノウハウなどを活用して新しい分野に挑戦するか、技術などに対する関連はないものの似ている市場に参入するかなど、まずは新規事業としてどのような展開を行うのか明確にしましょう。
中小企業が多角化するメリット・デメリット
ここでは、中小企業が多角化するメリットとデメリットを紹介します。
【中小企業が多角化するメリット・デメリット】
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多角化は、企業の成長に欠かせない大切な戦略です。正しい知識を身につけて万全の準備をしておきましょう。
中小企業が多角化する5つのメリット
まずお伝えするのは、多角化することで得られる5つのメリットです。
【中小企業が多角化する5つのメリット】
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多角化経営にどのような効果があるのかを正しく理解し、メリットを最大限発揮できるようにしておきましょう。
①収益の増加が期待できる
最も大きなメリットとして挙げられるのが、収益の増加が期待できることです。多角化経営で市場を拡大すれば、売上を伸ばすことにも繋がります。
どのような事業であっても、ある程度成長を遂げると成長率が鈍化してしまうケースが少なくありません。多角化によって新規事業に経営資源を投入することで、企業としての衰退を防ぐことが可能です。
また、製品のライフサイクルをズラすことができれば、収益を拡大しつつ経営の安定化が期待できます。
②経営リスクを分散できる
どんなに既存事業が成功していたとしても、顧客ニーズの変化・法令の改正・技術革新など、さまざまな変化によって大きな打撃を受けてしまうことがあります。
多角化経営で複数の事業を展開していれば、そのようなリスクを避けることも可能です。1つの事業が突発的変化にさらされてしまっても、多角化によりリスクが分散され、経営の基盤を安定させ続けることができます。
③相乗効果(シナジー効果)が期待できる
多角化では、経営資源を共有することで相乗効果(シナジー効果)も期待できます。下記は多角化で狙える相乗効果です。
販売シナジー | 流通経路・広告宣伝・商標・販売ノウハウなどを共有することで生じるシナジー効果 |
投資シナジー | 原材料の在庫・機械・投資機会の共通化などにより生じるシナジー効果 |
生産シナジー | 原材料・技術・機械設備などの共同利用により生じるシナジー効果 |
マネジメントシナジー | 経営陣の能力・管理者のマネジメント・現場管理のノウハウなどを共有することで生じるシナジー効果 |
具体的なメリットは、コストの削減・効率的な資源の活用・イノベーションの加速・顧客満足度の向上などです。複数の事業が連携することで、単純な足し算ではない大きな効果や価値が生まれます。
④経営資源を有効活用できる
多角化では経営資源を有効活用できます。経営資源とは、企業が事業を行う上で必要となるリソースのことで、よく知られているのが「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つです。
例えば「ヒト」の場合、開発や生産部門は専門性が高くなるため共有が難しくなりますが、総務・人事などのバックオフィスでは人材やノウハウなどを共有できます。
「モノ」ではゴルフ場が良い例です。積雪地帯にあるゴルフ場は、雪でプレーできない冬場にスキー場として営業することで、広大な土地や建物を活用できます。スタッフにとっても冬場の長期休業の心配がなくなり、結果として収益に貢献することが可能です。
⑤従業員のモチベーションUPが期待できる
主力業務が1つの場合、必然的に社内の組織はピラミッド型となるため、役職や管理職のポストは限られてしまいますが、多角化することによって事業が広がれば、社内に新しい部署やポストが設立されます。
昇進のチャンスが広がるので、従業員のモチベーションUPが期待でき、会社全体で大きな成長を遂げることが可能です。
また、新規事業は社内の従業員にとっても新しい挑戦となるので、上司・部下といった上下関係に関わらず、共に同じ方向を見て進んでいくスタイルが確立できます。
中小企業が多角化する4つのデメリット
中小企業の多角化には4つのデメリットがあります。
【中小企業が多角化する4つのデメリット】
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事前に正しい情報を把握しておくことで、大きなトラブルを回避することに繋がります。4つの項目をしっかりと理解し、それぞれの対策を考えておきましょう。
①多角化にコストがかかる
当然ですが、新しい事業の立ち上げが前提となる多角化は、製品開発・マーケティング・販売活動・宣伝など、さまざまな面でコストがかかってしまいます。中小企業の場合、1つの事業に対してかけられるコストには限度があるため、簡単に始められるものではありません。
しかし、コストがかかる一方で、相乗効果によるコストの低減・利益のアップを期待できるという面もあります。
②経営が非効率的になることがある
主力事業が1つだけの場合、大量発注によるコストダウンなどのメリットがあります。しかし、多角化することで事業が複数に分けられると、各事業がそれぞれで個別に発注する形になり、大量発注のメリットを失うことになりかねません。
また、経営資源の中で共有できるものもあれば、重複してしまうものも多くなるため、このような点でも経営の非効率さが顕著に表れます。
③損失が拡大する可能性がある
メリットとして「多角化は収益の増加が期待できる」とお伝えしましたが、経営がうまくいかなければ損失が拡大してしまう可能性もあるので注意が必要です。
多角化経営をすれば必ず利益が出るとは限りません。仮に世界的な大不況が起こってしまった場合、業界・業種に関係なく大きな打撃を受けることになります。そのような状況下で、上記でお伝えした経営の非効率化がさらなる損失に拍車をかけてしまうことも珍しくありません。
④企業ブランドが不明瞭化される
多角化を進めて新しい顧客の獲得を実現できたとしても、既存事業の顧客にとっては企業ブランドが不明瞭化してしまうこともあります。
企業ブランドが不明瞭化してしまっては、これまで築き上げてきた顧客との関係性を崩してしまうことにも繋がりかねません。
別ブランドを立ち上げる・これまでの顧客に対して配慮するなど、多角化を進めるとともにこうした取り組みを一緒に考えるようにしましょう。
中小企業が多角化を進める方法
多角化を進める方法は1つだけではありません。自社の状況や参入する市場などによって最も適した方法で進めることが大切です。
3つの方法について詳しく見ていきましょう。
【中小企業が多角化を進める方法】
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自社だけで多角化を進める
1つ目は、自社が保有する人材・資源・技術を活用して立ち上げる方法です。外部からの関与がなく、全てにおいて自社内で完結できます。
しかし、自社内だけでは斬新な発想が生まれにくく、市場への投入に時間がかかってしまうこともあります。また、商品開発において多くの面でコストがかかるため、綿密に予算を考えていかなければいけません。
他社と提携して多角化を進める
新規に立ち上げる事業に関する技術・ノウハウ・資金・販売力などを有している他社と、業務提携をして多角化を進める方法もあります。
ノウハウや生産力などが初めからあるため、自社内で全てをコントロールする進め方よりも、効率的に多角化を実現可能です。また、資本提携することで開発や展開に失敗してしまった場合のリスク分散もできます。
M&Aで多角化を進める
最後は、自社の多角化に必要となる事業を展開している企業や、参入を検討している市場において優位にある企業などを買収・合併する方法です。特に、競争優位性が高い企業をM&Aできれば、早い段階から自社の成長が見込めます。
しかし、競争優位性のある企業のM&Aには大きな費用が必要です。買収・合併後の統合作業にも非常に時間がかかります。多角化の実現はもちろんですが、実現後についてもしっかり考えておきましょう。
M&Aでの多角化は、専門家やコンサルタントに相談して行うことでスムーズに進められます。
中小企業の多角化における注意点
最後に、中小企業の多角化における注意点を紹介します。
【中小企業の多角化における注意点】
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リスクを抑えて成功率を上げるためにも、4つのポイントについて詳しく見ていきましょう。
既存事業の付加価値が必須
多角化を成功させるためのカギは既存事業です。保有する技術・ノウハウの付加価値が高ければ高いほど、競合他社よりも多角化戦略を優位に進められるので、既存事業に関連する多角化事業の成功率は大きく上がります。
成功率を上げてスムーズな事業展開を行うためにも、まずは既存事業の付加価値を高めることに注力しましょう。
スモールスタートでリスクを減らす
最初から巨額の投資をしてしまうと、失敗した時の損失は計り知れません。まずはスモールスタートでリスクを減らし、徐々に規模を大きくしていくようにしてください。
規模を大きくする際にも、一度に大きく広げるのは危険です。市場の状況や自社の能力などに合わせて投資を行うようにしましょう。
関連性が高い事業で多角化をする
既存事業と関連性が高い事業で多角化をすることにより、成功率は大きく跳ね上がります。また、保有する技術やノウハウを活かした事業であれば、失敗のリスクを最小限に抑えることも可能です。
既存事業とは全く異なる分野の場合、失敗のリスクが高いだけではなく、経営が軌道に乗るまでも時間がかかってしまうため、資本力が高くない中小企業の場合はおすすめできません。
成長性の高さだけで分野を選ばない
成長性が高く魅力的な市場であっても、安易に参入しないようにしてください。狙い目と感じる市場は他企業も当然注目しています。競争が激しくなってしまうと多角化の成功率は下がってしまうので、成長性の高さだけで分野を選ばないようにしましょう。
成長性の高い市場へ参入する場合は、競争のためのコスト増加も視野に入れてください。また、競争圧力が低い市場への参入も1つの手として考慮しておきましょう。
まとめ
本記事では、中小企業の多角化経営について詳しく紹介しました。中小企業の多角化にはメリットもデメリットも存在します。新しく展開した事業が失敗した場合、既存事業への影響も考えられるでしょう。
しかし、多角化に成功した時の企業としての成長は大きいです。収益が増加する上に、経営リスクを分散しながら経営資源を有効活用できます。また、相乗効果を生み出したり従業員のモチベーションを上げたりすることも可能です。
顧客のニーズが多様化している現代において、多角化することは会社としての成長に欠かせません。市場調査や自社の状況把握を徹底し、最も適した方法で多角化を進めていきましょう。
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この記事の信頼性
BBSインターナショナル株式会社
代表取締役
川口 毅
2002年、慶應義塾大学経済学部卒、大手広告代理店に入社。
その後メンタルコーチへのキャリアチェンジを経て、
2013年にNBCインターナショナル(株)に入社、フランチャイズの加盟店開発を専業とする。
2016年、同社取締役就任。2018年に事業部を分社化してBBSインターナショナル(株)を設立し、代表取締役就任。
フランチャイズの展開コンサルティングを主軸とし、フランチャイズ本部構築や、新規ビジネスの資金調達支援も行っている。