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新規事業の撤退基準の決め方は?絶対に押さえたいリスクマネジメントの手法も解説
新規事業を立ち上げる際には、成功を目指して全力を尽くすことは当然ですが、同時に「撤退基準」を明確に定めておくことが極めて重要です。これは、事業が思うように進まない場合に迅速かつ効果的な意思決定を行い、企業全体のリスクを最小限に抑えるための重要な戦略です。
多くの企業が新規事業に挑戦しますが、全てが成功するわけではありません。実際、失敗する事業も少なくありません。その際に撤退基準が曖昧であると、無駄なリソースを費やしてしまい、最終的には企業全体に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、あらかじめ明確な基準を設定しておくことで、迅速な対応が可能となり、失敗から学び、次の挑戦に向けた貴重な経験を積むことができます。
この記事では、新規事業における撤退基準の重要性やその決め方について、専門的な視点から詳しく解説していきます。
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新規事業は撤退基準を決めることが重要である3つの理由
新規事業を始める際、多くの企業は成功を目指して計画を立てますが、全てが計画通りに進むとは限りません。予想外の困難や市場の変化に直面したとき、事業の継続か撤退かを迅速に判断する必要があります。ここで役立つのが「撤退基準」の設定です。適切な撤退基準を持つことで、企業は効率的にリソースを管理し、リスクを最小限に抑えながら意思決定を行うことができます。以下では、撤退基準を決めることが重要である3つの理由について詳しく解説します。
迅速な意思決定に役立つ
新規事業において、撤退基準をあらかじめ設定しておくことは、迅速な意思決定を可能にします。事業が計画通りに進行しない場合、撤退基準が明確であれば、感情に流されずに冷静かつ迅速に撤退の判断を下すことができます。これは、リーダーシップを発揮し、事業全体を効率的に運営するために不可欠な要素です。特に、新規事業は予測が難しいため、計画に対する柔軟な対応が求められます。撤退基準を持つことで、必要なタイミングで迅速な対応が可能となり、企業全体のリスクを軽減できます。
限られたリソースを無駄にしないで済む
撤退基準を定めることで、限られたリソースを最適に配分することが可能になります。新規事業には人材や資金、時間といったリソースが投入されますが、これらは無限ではありません。撤退基準が明確であれば、リソースを無駄にすることなく、事業が失敗すると判断された時点で他のプロジェクトにリソースを振り向けることができます。これにより、企業全体の効率性が向上し、資源の有効活用が可能になります。
失敗した時のリスクを軽くすることができる
新規事業には成功のチャンスと同時にリスクが伴います。撤退基準を事前に決めておくことで、事業が思うように進まなかった場合にリスクを最小限に抑えることができます。具体的には、撤退基準に達した時点で素早く事業から手を引くことにより、損失を最小限に抑え、企業の健全な経営を維持することができます。また、撤退のタイミングを見極めることで、得られる教訓を次の事業に活かすことができ、長期的な企業の成長にもつながります。
これらの理由から、新規事業を成功させるためには、あらかじめ撤退基準を設定することが非常に重要です。企業が持続的に成長するためには、失敗を恐れずに挑戦するだけでなく、適切なタイミングでの撤退を判断できる力も必要です。
代表的な撤退基準の決め方8選
新規事業を成功に導くためには、事前に撤退基準を設定しておくことが重要です。撤退基準が明確であれば、事業が目標通りに進まなかった場合でも、冷静な判断が可能になり、リスクを最小限に抑えることができます。以下に、新規事業の撤退基準を決める際に参考となる8つの方法を紹介します。
KPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)で判断する
KPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)は、事業の進捗や成功度を定量的に評価するための指標です。KPIは、特定の業務や活動がどの程度うまくいっているかを測定するための指標であり、KGIは最終的な目標達成の度合いを示す指標です。新規事業においては、これらの指標を設定し、一定期間内に目標が達成されない場合には撤退を検討する基準とします。これにより、事業の健全性を客観的に判断でき、無駄なリソースの投入を防ぐことができます。
投資回収期間(ROI)で判断する
ROI(投資利益率)は、投資した資本がどの程度回収できているかを示す指標です。新規事業では、一定期間内に投資回収が見込めない場合には撤退を検討する基準とすることが一般的です。たとえば、初期投資が多額であればあるほど、ROIが低い状態が続くと企業全体の財務状況に悪影響を与える可能性が高まります。したがって、ROIが一定の基準を下回った場合には、早期に撤退を決断することが求められます。
PL(損益計算書)で判断する
PL(損益計算書)は、事業の収益性を把握するための基本的な財務報告書です。新規事業が赤字を出し続けている場合や、予測した収益を大幅に下回っている場合には、PLを基に撤退の判断を行うことが重要です。特に、新規事業における損益分岐点を明確にし、それを一定期間内に達成できない場合には、事業の継続は困難と見なされます。PLを活用することで、収益の見込みがない事業に対して迅速な対応が可能になります。
市場動向で判断する
市場動向を注視することも、新規事業の撤退基準を決める際に重要です。市場規模の縮小や競合他社の増加、顧客ニーズの変化などが見られた場合、事業の将来性に疑問が生じます。特に、当初の市場予測が大きく外れた場合には、撤退を検討することが必要です。市場動向の変化に敏感であることで、無駄な投資を防ぎ、企業全体の成長戦略を軌道修正することができます。
自社リソースで判断する
新規事業を成功させるためには、自社が持つリソースの適切な配分が必要です。人材、技術、資金などのリソースが不足している場合や、他の事業に影響を与えるほどリソースを消耗している場合には、撤退を検討すべきです。リソースが不足している状態で事業を続けることは、企業全体の競争力を弱めるリスクを伴います。そのため、自社のリソースを定期的に評価し、適切なタイミングで撤退を決断することが求められます。
顧客フィードバックで判断する
顧客からのフィードバックは、事業の価値や将来性を評価するための重要な指標です。新規事業が顧客の期待に応えられていない場合や、ネガティブなフィードバックが多い場合には、事業の見直しや撤退を検討する必要があります。顧客フィードバックを定期的に収集・分析することで、早期に問題点を発見し、撤退のタイミングを適切に判断することができます。
リスク評価で判断する
新規事業には常にリスクが伴いますが、そのリスクが許容範囲を超える場合には撤退を検討すべきです。リスク評価を定期的に行い、リスクが高まったと判断された場合には、事業を継続するか撤退するかの決断が必要です。リスク評価には、経済環境の変動、法規制の変更、技術的な障害などが含まれます。リスクが予想以上に高まった場合には、早期に撤退を決断することで、企業全体の健全性を保つことができます。
経営陣の評価で判断する
最終的な判断は経営陣の評価に委ねられます。経営陣が新規事業に対して持つビジョンや戦略的な意図が明確でない場合や、事業が企業全体の戦略と一致しないと判断された場合には、撤退を検討するべきです。また、経営陣の意向が統一されていない場合や、事業継続に対する信頼が揺らいでいる場合も、早期撤退を選択することが企業の利益を守るために重要です。
成功企業に学ぶ撤退基準の事例
新規事業を進める上で、撤退基準を設定することは極めて重要です。成功企業は、的確な撤退基準を持つことで、大きな損失を回避し、次のチャンスに集中することができています。ここでは、代表的な成功企業であるファーストリテイリング、ソフトバンク、メルカリ、リクルート、サイバーエージェントの5社がどのような撤退基準を設けているかについて紹介します。
ファーストリテイリング
ファーストリテイリングは、ユニクロなどのブランドを展開するアパレル業界の大手企業です。同社は、新規事業において「3年以内に収益を確保できない場合は撤退する」という明確な基準を設けています。この方針により、収益性が見込めない事業に対しては、早期に見切りをつけることで、リソースを他の成長分野に振り向けています。特に、グローバル展開においてもこの撤退基準を徹底し、地域ごとの市場性を慎重に評価しています。
ソフトバンク
ソフトバンクは、通信事業を基盤としつつ、さまざまな分野で新規事業に挑戦しています。ソフトバンクの撤退基準として、「投資回収期間が長期化する場合、事業の再評価を行い、必要に応じて撤退する」というものがあります。例えば、ロボット事業のPepperにおいては、当初期待されていた収益性が見込めず、投資回収が長期化することが判明したため、事業の縮小や見直しが行われました。これにより、同社は持続的な成長を維持しています。
メルカリ
メルカリは、国内外で急成長を遂げたフリマアプリを提供する企業です。同社の撤退基準は「新規事業に必要なリソースが本業の成長に影響を及ぼす場合は撤退する」というものです。これにより、メルカリは本業であるフリマアプリ事業に集中し、それ以外の事業がリソースを圧迫する場合には迅速に撤退を決断しています。この方針が功を奏し、メルカリは本業での競争力を高めることに成功しています。
リクルート
リクルートは、人材ビジネスを中心に、多岐にわたる事業を展開している企業です。同社の撤退基準は「事業の成長戦略やポートフォリオの優先順位に基づき、事業ごとに独自の判断基準を設ける」というものです。リクルートでは、事業ごとに詳細な成長戦略を策定し、それに基づいて定期的に事業の評価を行い、撤退の判断を下しています。このプロセスにより、リクルートは競争力のあるポートフォリオを維持し、効率的なリソース配分を実現しています。
サイバーエージェント
サイバーエージェントは、インターネット広告やメディア事業を主軸とする企業で、新規事業に対しても積極的な姿勢を見せています。同社は「1年以内に収益性を見込めない場合は撤退する」という厳格な基準を持っています。この基準により、サイバーエージェントは無駄なリソースを浪費せず、早期に撤退を決断することで、新たな事業機会に迅速に対応しています。このような撤退基準が、同社の持続的な成長を支えています。
これらの成功企業に共通して言えることは、撤退基準を明確に設定し、それを厳守することでリスクを最小限に抑え、成長の機会を逃さないという点です。新規事業を進める上で、このような撤退基準を参考にすることは、事業の成功確率を高めるために非常に有効です。
新規事業の撤退ラインを見極める方法
新規事業を成功に導くためには、開始時に撤退ラインを設定することが不可欠です。撤退ラインが明確であれば、事業が計画通りに進まない場合でも、冷静かつ迅速に適切な判断を下すことができます。ここでは、新規事業の撤退ラインを見極めるための具体的な方法を4つご紹介します。
新規事業の損益で赤字
新規事業が赤字を出し続けている場合、撤退を検討する必要があります。特に、事業開始から一定期間が経過しても黒字化の見込みが立たない場合には、早期に撤退を決断することが重要です。赤字の状態が続くと、企業全体の財務状況に悪影響を及ぼす可能性が高まり、他の成長事業に必要なリソースを浪費してしまうリスクがあります。
設定した目標に対して達成率が低い
事業開始時に設定した目標(KPIやKGIなど)が達成できていない場合も、撤退を検討すべきです。目標達成率が低いということは、事業の成長性や市場ニーズに問題がある可能性が高いです。このような状況で事業を続けることは、時間とリソースの無駄遣いになるため、早期に撤退を決断することで、より有望な事業に注力することができます。
自社の強みと弱みを分析して判断する
新規事業を進める上で、自社の強みと弱みを定期的に分析することが重要です。自社の強みが十分に活かされておらず、逆に弱みが顕著に現れている場合には、撤退を検討するべきです。自社のリソースや技術が事業のニーズに適合していない場合、成功する可能性は低くなります。こうした状況を見極め、撤退を決断することで、企業全体の競争力を保つことができます。
市場の変化と外的に不利な要因から判断する
市場の変化や外部環境の変動も、撤退ラインを見極める重要な要因です。市場規模の縮小や競合の台頭、法規制の変更など、外的に不利な要因が増えている場合には、事業の継続が困難になる可能性があります。市場環境が大きく変化し、事業の成長が見込めなくなった場合には、早期に撤退を検討し、リスクを最小限に抑えることが求められます。
これらの方法を用いて、新規事業の撤退ラインを見極めることは、事業の成功と企業全体の持続的成長にとって非常に重要です。撤退を適切に判断することで、企業はリソースを最適に活用し、新たなビジネスチャンスをつかむ準備が整います。
新規事業のリスクマネジメント戦略
新規事業を成功させるためには、リスクマネジメントが欠かせません。新しい市場や技術に挑戦する際には、さまざまな不確実性が伴います。そのため、潜在的なリスクを適切に管理し、対策を講じることが重要です。以下では、リスクマネジメントの基本的な戦略として「リスクアセスメントの手法」と「撤退基準とリスク管理の連携」について詳しく解説します。
リスクアセスメントの手法
リスクアセスメントは、事業活動におけるリスクを特定し、その影響度と発生可能性を評価するプロセスです。新規事業では、予測できるリスクと予測が難しいリスクの両方を考慮に入れ、総合的に分析する必要があります。ここでは、代表的なリスクアセスメントの手法をいくつか紹介します。
- SWOT分析 SWOT分析は、企業の内部環境(強みと弱み)と外部環境(機会と脅威)を整理し、新規事業に影響を与えるリスク要因を明らかにします。この分析により、事業の強みを活かし、弱みを補完するための戦略を立てることができます。
- PEST分析 PEST分析は、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)といった外部要因を評価し、これらが新規事業にどのような影響を与えるかを分析します。これにより、市場環境の変化に柔軟に対応できる戦略を構築することができます。
- リスクマトリックス リスクマトリックスは、リスクの発生確率と影響度をマッピングする手法です。縦軸に影響度、横軸に発生確率を配置し、それぞれのリスクがどの程度の優先度を持つかを視覚的に把握できます。これにより、リソースを効率的に配分し、重大なリスクに対して優先的に対応することが可能です。
これらの手法を組み合わせることで、リスクを体系的に評価し、事業計画に反映させることができます。特に新規事業では、未知の要因が多いため、継続的なリスクアセスメントが求められます。
撤退基準とリスク管理の連携
新規事業においては、撤退基準とリスク管理を連携させることが極めて重要です。撤退基準を事前に設定しておくことで、事業が計画通りに進まない場合でも、感情に左右されずに冷静に判断を下すことができます。以下は、撤退基準とリスク管理を連携させるためのポイントです。
- 定量的な基準の設定 KPIやROIなど、定量的な指標を基に撤退基準を設定します。これにより、事業の進捗を数値で評価し、客観的な判断が可能になります。また、これらの指標を定期的に見直し、リスクアセスメントの結果と照らし合わせることで、撤退のタイミングを適切に判断できます。
- 柔軟なリスク対応策の導入 新規事業では、リスクが突然発生することが少なくありません。そのため、リスク対応策を柔軟に設計し、状況に応じて撤退基準を調整できるようにしておくことが重要です。たとえば、市場環境の急激な変化や技術的な障害が発生した場合には、迅速に対応し、必要に応じて撤退を検討することが求められます。
- リスク管理チームの設置 リスク管理を専門に行うチームを設置し、事業の進捗とリスク要因を常にモニタリングします。このチームは、撤退基準の達成状況を定期的に評価し、経営陣に報告する役割を担います。リスク管理チームが機能することで、事業全体の健全性を保ちつつ、撤退判断を的確に行うことができます。
撤退基準とリスク管理の連携により、新規事業が抱える不確実性に対して戦略的に対応することが可能になります。リスクマネジメントを強化することで、企業は新たな挑戦に対する耐性を高め、持続的な成長を実現できるでしょう。
まとめ
新規事業を成功させるためには、単にスタートを切るだけでなく、撤退基準を明確に設定することが非常に重要です。この記事では、新規事業の撤退基準を決めることの必要性と、その具体的な方法について解説してきました。
まず、迅速な意思決定やリソースの有効活用、そしてリスク軽減の観点から、撤退基準の設定がいかに重要であるかを確認しました。続いて、KPIやROI、PLなどの代表的な撤退基準の決め方を紹介し、成功企業の事例を通じて具体的な実践方法を学びました。また、撤退ラインを見極めるための方法として、利益状況や目標達成率、そして市場動向の分析が不可欠であることも強調しました。
新規事業のリスクマネジメント戦略については、リスクアセスメントの手法や撤退基準との連携を通じて、事業の不確実性に対処するための具体的なアプローチを提供しました。
総じて、新規事業を成功させるためには、リスクを管理し、適切なタイミングで撤退を判断する能力が求められます。この記事で紹介した戦略や基準を活用することで、事業の成功確率を高め、持続的な成長を実現できるでしょう。新規事業を進める際には、これらのポイントをしっかりと押さえて、長期的な視点で経営を行うことが大切です。
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この記事の信頼性
BBSインターナショナル株式会社
代表取締役
川口 毅
2002年、慶應義塾大学経済学部卒、大手広告代理店に入社。
その後メンタルコーチへのキャリアチェンジを経て、
2013年にNBCインターナショナル(株)に入社、フランチャイズの加盟店開発を専業とする。
2016年、同社取締役就任。2018年に事業部を分社化してBBSインターナショナル(株)を設立し、代表取締役就任。
フランチャイズの展開コンサルティングを主軸とし、フランチャイズ本部構築や、新規ビジネスの資金調達支援も行っている。